ワイヤードに詳しくない人たちは,ワイヤードを恐怖の闇として妄想を膨らます。ワイヤードを詳しく知ってしまった人たちは,ともすると,ワイヤードのなかにある妄想の闇に引きずり込まれてしまう。
『サザン・メディカル・ジャーナル』6月号に,南フロリダ大学医学部の2人の妄想症患者の症例が取り上げられている。1例目は40才の男性。自分のマスタベーションやガールフレンドとのセックスを友人たちの手でインターネットに流されたと,顔を撃って自殺を図った。またCIAにいる友人に「インターネット・バグ」という虫を耳の中に入れられて自分の心を読まれ,CIAが特定のキー操作からリンクをたどることで,彼の身体をコントロールできるとも信じていた。もう1人は41才の男性で,自分は魔法使いのウェブマスターで新人魔法使いたちにアドバイスするオンラインサービスを運営していると信じていた。患者らは,インターネットに関する情報を主にテレビから得ていて,実際にはインターネットに関する知識はなかった。
タイトルだけ読んだときは「そうだよなぁ,ネットは妄想をかき立てるよなぁ,実際にかき立てられているやつも多いし…」と笑っていたが,読んでみると全然違う話だった(^^ゞ。妄想症の人たちは,アポロが月が行ったときもそこから妄想したり,共産主義が全盛の時もそこから妄想したり,と,その時々のトピックに敏感に反応する。インターネットは,利用していないとよく判らなくて,個人の情報が漏れるとか,隠しカメラで映像が流れているとか,なんとなく怖いものではある。だから,当然妄想へと繋がっていくだろう。
ただ,実際にインターネットを散々利用していると,底知れぬおそろしさを感じることはないだろうか。最近の調査では,全世界のウェブには,15テラバイトのデータと1億8000万点の画像を含んだ8億のページがあるという。この数字は急速な勢いでまだ加速しており,このワイヤードの膨張の中で自分の位置を確認するのは大変不確かだ。まったく判らぬ闇のなかに投げ出されたような時に沸き上がる妄想もあろう。そんなところから病んでいく精神もあろう。
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